イキナリ「!」なサブタイトルで、出版関係の方から文句が来そうですが(笑)。決して批判的な内容ではアリマセン
のでご安心を。また今回は模型工作に直接関係のない話も出てきますがメゲずに最後までお付き合いをお願いします。
○雑誌のモデラーさんの「脳」と、あなたの「脳」は違うかもしれない
人間の脳ミソというのは、生まれたばかりのときは真っ白な状態です。だんだんと成長していく過程でさまざまなこと
を経験して学習することで、脳は次第にその人の体をうまくコントロールする能力を会得し、人格が形成されていきます。
これは脳を構成する膨大な数の神経線維(ニューロン)の1本1本が、経験を重ねることでつながっていき、やがて巨大
なニューロンのネットワークができあがって脳が脳として機能するようになっていく、ということなのだそうです。だと
すれば、脳内のニューロンネットワークの形成、すなわち脳による体のコントロール能力、認識力、感性などは、脳がか
たち作られるまでにその人が体験してきた出来事や環境に大きく左右される、ということになります。
世の中、全く同じ環境で全く同じ経験をしてきた人間はまずいません。ということは全く同じように脳内のニューロン
ネットワークが形成された人間もいないということです。同じものを見たり、同じ説明を聞いたりしても、あなたの隣に
いる人は、それをあなたと同じように認識していないかもしれないし、あなたの隣にいる人が同じ動作をしても、その人
の脳はあなたの脳と同じように体をコントロールしているとは限らない、ということなのです。これは重要なことです。
簡単な模型的事例をひとつ。GSIクレオスさんのMrカラー・黄燈色。あなたはこれを黄色に分類しますか?それと
もオレンジ?人によって答えが違うと思います。
実際の模型工作は上の例のように単純ではなく、工具の持ち方、動かし方、力の入れ方、色調や明度彩度の判断など実
にさまざまな要素が絡み合っています。もちろんモデラーさんは、自分の知識や経験をフルに活用して、限られた紙面の
中で作業の内容を読者になんとか伝えようと努力します。でも、読者の側と認識力や感性などが大きく異なってしまった
場合は、文章の表現力、読解力以前のところで伝えたいことがちゃんと伝わらないことも考えられます。
雑誌のモデラーさんが伝えたかったこととあなたが雑誌から読み取ったことは、実は違う内容だったのかもしれません。
仮にそれが同じだったとしても、実際に作業を行なう体をコントロールする脳が違う以上、雑誌に書いてあるとおりにや
ってみたけれど、その作業が雑誌に書かれているのと同じ結果を得られないことも十分あり得るのです。
○雑誌のモデラーさんの「作業環境」と、あなたの「作業環境」は違うかもしれない
日本は南北に長い国です。ですから暑いところや寒いところ、湿度の高いところや乾燥したところがあります。また四
季がありますから、1年のうちでも気温が大きく変化します。ということは、例えば完璧に同じ分量の主剤と硬化剤を混
ぜたポリエステルパテでも、作業している場所や季節で硬化時間が変わってくるし、硬化後の硬さも異なる、ということ
です。エアブラシで吹く塗料のうすめ具合を作業時の湿度や気温によって変えてやる必要があることは、ご自分で実際に
経験された方も多いでしょう。
私の住んでいる長野市は乾燥しているほうなので、カンスプレーを利用しやすい季候の土地ですが、以前、静岡の海の
近くに住んでいたときは湿度が高くて、1年のうちでもカンスプレーを使える日は限られていました。(注・カンスプレ
ー、特につや有りの場合は湿度が高いときに吹くと塗装面が白く曇ってしまう「カブリ」という現象を起こしやすい。)
雑誌のモデラーさんが作業している環境と、あなたの作業環境が似ている場合は問題ないのですが、もし大きく異なって
いた場合は、最悪、雑誌に書いてあるテクニックは、あなたの住んでいるところでは使えない、なんてこともあるかもし
れません。
厳密には「環境」ではありませんが、もうひとつ具体例を挙げてみましょう。最近の製作記事では塗装に使用したカラ
ーの混合比が記載されているのが当たり前になっています。ここで注意しなければならないのは、同じ会社の同じ色のカ
ラーであっても、モデラーさんが使用したカラーとあなたが持っているカラーは違うモノ、すなわち濃度が違う状態にな
っている可能性がある、ということです。記事のカラー混合比はたいてい容量比で書いてありますが、工場出荷直後のカ
ラーと、置いておいてシンナー分が揮発して濃くなった状態のカラーでは、同じ容量を取り分けた場合、その中の顔料の
量が違ってしまっていることはおわかりいただけると思います。逆に買ってきたカラーが使っているうちに濃くなってし
まったのでシンナーで薄めてから保存しました、なんてこともあるでしょうし。記事に記載してある混合比と同じにカラ
ーを調合したはずなのにどう見ても違った色になってしまった経験、ありませんか?
○模型雑誌は「神さま」が作っているのではない
模型雑誌の作例記事は、普通、作例の製作と製作文の本文をモデラーが担当し、写真撮影とページ構成を編集者が担当
します。写真のキャプション文などは編集者側で書くことが多いです。モデラーと編集者は違う人間ですから、打ち合わ
せをしっかりしていないと、誤って実際の工作内容と異なるキャプションが掲載されてしまうことがあったりします。モ
デラーが書いた原稿をチェックして文章の間違いを直すのも編集者の役目ですが、正しい文章にするために修正を行なっ
た結果、不幸にもモデラーの言いたかったことと違う内容になってしまうこともあります。また、モデラーが何かのひょ
うしに間違って覚えてしまったカン違いがそのまま記事になってしまうことだってないとはいえません。それから、あら
ゆる出版物が決して逃れることができない「誤植」。日本語は助詞ひとつが違っただけで文章が別の意味になってしまう
こともある繊細な言語です。私も過去、これにはずいぶん泣かされてきました。
本来、これらはメディアとしてあってはならないことです。そのために一度作ったページ上の誤りやマズいところを直
す「校正」(現場では「校了」と言われることもあるようですが、ナゼ?)という作業があるわけですが、模型雑誌編集
者さんの仕事は文字通りの「激務」です。一人で何十ページ(場合によってはもう一桁多い…)も作成作業を担当しなけ
ればなりません。打ち合わせも取材もしなければなりません。その上別冊が出ます、なんてことになると…(泣)。人間
のやることですから不備が出たりもするわけです。
模型雑誌に限りませんが、活字メディアだって間違えることはよくあるのです。「活字だから」という根拠のない理由
で妄信してはイケマセン。
○紙媒体としての模型雑誌の限界
模型雑誌のページ数は限られています。ページ数を増やせばいいのですが、価格そのほかの事情から百科事典のように
ブ厚くするわけにもいきません。ですから一つの作例に使用できるページも限られてきます。スペースがあればもっと見
やすい大きな写真が載せられるのに、もっとわかりやすい説明ができるのにと思っていても泣く泣くカットしなければな
らない部分が出たりして、その作例を解説しきれないこともあったりします。
また、模型雑誌は二次元での表現メディアです。作例は三次元の立体ですから、二次元での情報にするために写真に撮
る必要があります。ところが写真になった時点でカメラのレンズの影響で形が違って見えるようになってしまったり、撮
影時のライティングの加減によっては色味が実物とは全く違って写ってしまったりすることがよくあるのです。しかも、
雑誌には撮影した写真が「写真」としてそのまま掲載されるのではありません。あなたの手にした模型雑誌では、「写真
であったもの」は限られた色数のインクによって構成される「印刷物」になっているのです。残念ながらこの時点で(特
に色の)再現性はさらに落ちていることになります。
雑誌に掲載された作例がイベントなどで展示されているのを見て、「雑誌に載っていたのと全然違う!」と思ったこと
はないでしょうか?それは実はこんなところにも原因があるのです。
○模型雑誌は「妄信せず」に「参考にして」使いこなせ
私が言いたいのは、「模型雑誌の記事は決して万人に対して完璧なものではないし、妄信するとこんなネガティブな部
分もある」ということです。つまり、「模型雑誌に書いてあるとおり」があなたにとって「正しい」とは限らないし、さ
まざまな理由により情報を正確に伝えられないこともあるかもしれない、と。では、それを頭の隅に置いた上で、いかに
して模型雑誌を活用したらよいのでしょうか?
まず、雑誌を読んだだけでは模型の工作技術は「自分のもの」にすることはできないことを知っておきましょう。その
上で頭の中だけで考えず、まずは自分の手を動かしてやってみる。それでうまくいったときはあなたも、記事を書いたモ
デラーさんもラッキーだったということです。それならばOK。うまくいかないときは、何が違うのかを考えてみましょ
う。単に環境条件が違うだけかもしれませんし、あなたにはたまたまそのやり方が合わないだけなのかもしれません。そ
のときは自分のやり易いようにやり方を変えて工夫してみましょう。他人に教えてもらうことも有効な方法ではあります
が、自分の頭で考えて工夫してみることはもっと大切です。つまり、鵜呑みにせずに自分なりに消化する、ということが
重要であり、自分がそのテクニックを駆使できるようにするためには、時には能力や環境に応じて自分なりにアレンジす
ることも必要だ、ということです。これが(経験的に)わかっている人はおそらく上達も早いと思います。
私の好きな小説に荒巻義雄先生の「紺碧の艦隊」(徳間書店・刊)があるのですが、その中でカレーライスの話が出て
きます。もともとインドの料理がイギリスを経由して日本に入ってきたとき、日本人がこの他国の料理を自分達の口に合
うように非常にうまくカスタマイズしてしまった結果、カレーは日本人の国民食と言ってもいい料理にまでなった、とい
う話なのですが、模型雑誌に書いてあるテクニックも全く同じではないでしょうか?カスタマイズして「自分のモノ」に
してやればよいと思うのです。
色については、雑誌の写真の色は本物とは違っている可能性が高いこと、記載されているカラーの混合比はそのまま調
合しても同じ色にはならない場合もあり得るということを承知した上で、実際には自分が見てカッコいいと思える色、自
分が気に入ったと思える色に調色してやるのがいいのではないかと思います。それに記事で記載された混合比というのは、
特に調色が苦手な方にとって、カラーを混合する上での重要な「指針」であることには間違いありません。モデラーさん
がせっかく提示してくれた貴重なデータです。うまく使いましょう。
そんなわけで、これをお読みになった皆さんには、模型雑誌を読むときにはただ書いてあることを頭の中にダウンロー
ドするのではなく、自分の脳ミソをフルに使い、手も(足も?)実際に動かすことで、模型雑誌を有効に「使い倒す」達
人になっていただきたいと思います。そうしてもらえれば、〆切に追われヒーヒー言いながら日々作例を製作しているモ
デラーさんも浮かばれるというものです(←死んでないって!)。
今回は「模型雑誌」という例でお話しましたが、サイト上の模型講座などについても同じようなことがいえる部分があ
ると思います。もちろん、この「星野塾」も例外ではありませんからそのつもりでお読みください。書く側はわかりやす
く誤りのないものを提供する。読む側は与えられた情報を上手に活用する。双方がそう心掛けることで模型趣味の世界が
より楽しく面白いものになればいいな、と私は思っています。
以上、星野のひとでした。
(H18.7.22 )
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